「大学とカネ」が世間を賑わす昨今について。

最近やけに「大学とカネ」のニュースが多いですね。僕の本業は大学職員なんで日頃からチェックしてるんですが、多くの人がかなりの関心をお持ちのようで。しかし結構誤解されがちな問題も見受けられますので、解説もかねて記事にしたいと思います。


最近話題になった「大学とカネ」のニュースのなかでも世知辛レベル高いのは以下の具合です。
 国立大学の授業料、15年後は40万円増の93万円に値上がりか…文科省試算
  大学に軍事研究資金 防衛省 公募に9件を採択
  新潟大、財政難で教員人事凍結 原則2年間、補充もなし
 「奨学金返済のために風俗で働く女子大生」

     ※そしてありがちな誤解はこんな感じ
  • 大学への資金投下は減っている一方だ
  • 返せないのに奨学金を借りるほうが悪い
  • Fラン大学を潰せば色々解決する 
  • 大学は現状の組織運営を維持すべきだ

まず「大学への資金投下は減っている一方だ」という話なんですが、最新の文部科学白書を見てみますと高等教育機関への予算はむしろ微増な具合です。減ってないのです。ちなみにこれは民主党政権下での「コンクリートから人へ」の影響があったりもします。

じゃあなぜ学費値上げや財政難が起きるんだという話なんですが、それは「運営費交付金」や「私学助成金」と呼ばれる、基礎的な補助金の枠を減らしているからです。これらの補助金は大学の規模や学生数等に応じて機械的に配分されるものですが、「これに依存してては競争原理や努力義務が働かない」ということで、何らかの取り組みをアピールできる大学や研究者に対して補助をする「競争的資金」の枠をどんどん増やしています。上記ニュースの「大学に軍事研究資金」もその一環ですね。ちなみに実はアメリカでは公的な研究資金の半分が国防総省予算=軍事費だったりします。2014年予算は680億ドルか、パネェな…。

一見するとこの競争原理は真っ当なんですが、そもそも各大学のスタートラインが違いますので旧帝大が圧倒的に強くなってしまっています。例えば冒頭で紹介したとおり財政難に陥っている新潟大学の場合、科学研究費補助金は東大の1/13です。私立大学だともっと大差がついていますね。また、補助金を取りやすい分野とそうではない分野がありますので、例えば医科大と教育大でも格差が出てしまいます。そして、特殊な取り組みや先進的な研究に資金を回す必要があれば日頃の教育研究へ資金が回らなくなるので、そりゃ授業料が上がります。少なくとも「大学のムダな取り組みを減らして授業料も下げよう」という話にはなりません、補助金を取りにくくなるので。
ここからお分かりかと思いますが、中小の私立大学なんて大した額の補助を受けていませんので「Fラン大学を潰せば色々解決する」ことはないのです。地方の若者が割りを食うだけになってしまう。

その一方で、学生の暮らしぶりは良くなっていません。データを見ると、仕送り額は下がる一方です(大学進学率が上がると家計が若干苦しくても進学させようとする親が増えます)。なので学生がバイトで稼ぐ必要があるんですが、最近は授業の出席数を重視しつつカリキュラムをガッチリ固めさせる政策を文科省がとってますので大学生のライフスタイルは以前と比べ融通が利かないはずです。最近は就活も長期化してますし、海外留学を義務化するような大学が増えると尚更厳しくなるでしょう。
とはいえ21世紀にもなって「高卒で就職しろ」ってのは建設的でもないですし、専門学校だって胡散臭いとこ沢山ありますから、この状況下では奨学金が求められてるのは必然的なもので、返せないのに奨学金を借りるほうが悪い自己責任論に着地させるべきではないでしょうね。一応給付型奨学金の整備が進んでますが、今のところ焼け石に水って感じが否めないかなぁ。

そういうわけで大学業界は改革疲れに陥っているのですが、じゃあ大学は現状の組織運営を維持すべきだと言ってる場合ではありません。世界的にみて日本の科学研究が沈没していってるのは明らかですし、時事の様子をみていれば人々の社会科学的な知識が足りてないのも明らかですし、そもそも科学や大学教育を信頼していない人だらけで。企業が求めるのは駅伝ランナーとかミスコン出場者で、大学院にいったら損するケースばかりじゃないですか。

でも責任は大学にあります。大学の教育にホントに満足した大卒者なんて珍しいくらいでしょう、そりゃ不信感が募る。この辺りは教育予算を増やせば解決する話ではありません。まずは大学は放任主義的教育を捨て、研究者はより生活に根ざしたアウトプットを出すべきだと思います。俗っぽく言えば、生臭い問題に学生も研究者もコミットすべきなのです。
民族差別を研究している若い社会心理学者である高史明は「"生々しい問題"を扱おうとしない日本の心理学に一石を投じたいと長年頑張ってきた」と言います。それがきっかけでハラスメントを受けたことも明言しています。しかし彼の出した新著は発売半年ちょっとで3刷まで増版され高い評価を受けているようです。それは新書などではなく、博士論文を元にして科学研究費補助金の助成を受けて出版された、れっきとした学術書であるにもかかわらず。…今までの学術界は何をしてきたんだ?

社会と大学・科学の信頼関係を再構築して支援者や応援者を増やさないかぎり、「大学とカネ」 の問題も根本的には解決しないのではないか、僕はそう思っているのです。そしてその解決度は就職率や改革進捗報告書だけで査定するものではないでしょう。

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